旅行を経費にできるボーダーラインとは?経理目線で本気で調べた
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目次6項目
旅行の費用が必要経費になるかは、所得税法37条1項の「総収入金額を得るため直接に要した費用」に当たるかで決まります。私用と混ざった支出は家事関連費として、業務に必要な部分が50%を超えるかで判定され、50%以下でも明らかに区分できる部分は算入できます。法人が出す海外渡航費は、業務に従事した日数の割合を10%単位に丸めて按分します。
まず確認: 按分して経費に入れられる旅行か
- 売上につながる具体的な用務がある(取引先訪問・工場見学・展示会・国際会議への出席など)
- 日程を「業務に従事した日」と「観光した日」と「移動日」に分けて書き出せる
- 業務に従事した部分の資料(日程表・面談相手・成果物)が日付で残っている
- 同行した家族や友人の費用を含めていない
- 帳簿と書類を保存する年限(法人は原則7年、個人の青色申告者も原則7年)を確保できる
5つすべてに当てはまるなら、按分して経費に入れる余地があります。ひとつでも欠けるときに真っ先に崩れるのが3つ目で、支払いの記録だけが残っていて、その日に何をしていたかを示す資料が無い形になりがちです。所得税法施行令96条は、青色申告者の家事関連費について「取引の記録等に基づいて、業務の遂行上直接必要であつたことが明らかにされる部分」と書いています。記録が無い部分は、条文の文言の側から落ちます。

按分の割合を出すまでの5工程
この5工程は、平成12年10月11日付の「海外渡航費の取扱いについて」(課法2-15・課所4-24・査調4-29)に書かれている手順です。同業者団体などが主催する海外視察の機会に観光が併せて行われる場合の処理基準として整備されたもので、昭和42年8月21日付の旧通達はこれにより廃止されています。
数字を入れてみます。5泊6日のうち、往復の移動が2日、工場見学と展示会が2.5日、自由行動が1.5日だったとします。業務従事割合は 2.5 ÷(2.5 + 1.5)で62.5%。10%単位に丸めて60%です。往復の交通費が10万円、宿泊と現地費用が12万円なら、業務従事割合が50%以上なので交通費10万円は全額、現地費用12万円には60%を掛けて7万2,000円。合わせて17万2,000円が旅費として残ります。
同じ旅程でも、移動日2日を分母に入れてしまうと 2.5 ÷ 6 で41.7%になり、丸めて40%。往復交通費を先に抜く扱いも使えなくなるので、22万円 × 40%で8万8,000円まで落ちます。半分近い差が、数え方だけで出ます。
立場ごとに、どの条文で判定されるか
個人事業主の旅費を直接あつかうのは所得税基本通達37-16です。「事業を営む者が自己の海外渡航に際して支出する費用は、その海外渡航が当該事業の遂行上直接必要であると認められる場合に限り」、交通機関の利用や宿泊等の費用に充てられたと認められる部分を必要経費に算入する、と書かれています。括弧の中に「家事上の経費に属するものを除く」が入っているのが要点で、直接必要かどうかの判定と、家事関連費の按分は別の関門です。
その家事関連費の側にあるのが50%という数字です。所得税基本通達45-2は、施行令96条1号の「主たる部分が業務の遂行上必要」かどうかを「その支出する金額のうち当該業務の遂行上必要な部分が50%を超えるかどうかにより判定する」としています。ただし同じ通達に「当該必要な部分の金額が50%以下であっても、その必要である部分を明らかに区分することができる場合には、当該必要である部分に相当する金額を必要経費に算入して差し支えない」という但書が続きます。50%は足切りではなく、区分の手間を省ける線です。
引っかかりやすいポイント
社員旅行の「10万円まで非課税」は、国税庁のどこにも書かれていない
金額の基準として広く出回っている数字ですが、国税庁が示しているのは基準ではなく事例です。タックスアンサー No.2603 に載っているのは3つ。3泊4日・旅行費用15万円(うち会社負担7万円)・参加割合100%は課税しなくてよい。4泊5日・25万円(同10万円)・100%も課税しなくてよい。5泊6日・30万円(同15万円)・50%は課税される。
3つ目が課税される理由として国税庁が書いているのは、金額ではなく期間です。「旅行期間が5泊6日以上のものについては、その旅行は、社会通念上一般に行われている旅行とは認められない」。会社負担15万円が多すぎるからではありません。
金額が論点になった公表例は、国税不服審判所の平成8年1月26日裁決(裁決事例集 No.51)ひとつです。参加者1人あたりの費用が34万1,000円・45万4,411円・52万円だった海外慰安旅行について、「当該金額は、多額であると認められる」として福利厚生行事とは認められないと判断されました。裁決の言い方は「経済的な利益の額が多額であれば、課税しない根拠を失うこととなる」。上限額を定めたものではなく、この水準では持たなかった、という事例です。
参加割合50%未満でも、非課税になった事例が公表されている
4泊5日以内・参加50%以上という要件は、昭和63年5月25日付の直法6-9(直所3-13)に書かれています。ただし国税庁は同じタックスアンサーの Q&A で、3泊4日・旅行費用15万円(会社負担7万円)・参加割合38%の事案について「従業員の参加割合が50%未満であっても、その旅行に係る経済的利益については、課税しなくて差し支えありません」と回答しています。
通達の書き出しも「次のいずれの要件も満たしている場合には、原則として課税しなくて差し支えない」で、要件を外れたら課税、とは書いていません。判断は旅行の企画立案・主催者・目的・規模・行程・参加割合・負担額と負担割合の総合勘案です。要件は、そこを通れば個別の検討をしなくて済む入口だと読むほうが実態に近い。
逆に、要件を満たしても外れるものが明記されています。役員だけで行う旅行、取引先の接待・供応・慰安のための旅行、実質的に私的旅行と認められるもの、金銭との選択が可能な旅行。この4つは参加割合や日数に関係なく対象外です。
「昭和63年直法6-9=海外渡航費の通達」は別の通達との取り違え
昭63直法6-9は「所得税基本通達36-30の運用について」で、扱っているのは社員旅行です。4泊5日と50%はここにあります。海外視察に観光が混ざるときの按分を定めているのは平成12年10月11日の課法2-15で、別の通達です。両方を同じものとして引くと、社員旅行の要件を法人の視察旅行に当てはめる形になり、日数の数え方から狂います。
所得税基本通達36-30そのものには、日数も人数も書かれていません。本文にあるのは「社会通念上一般的に行われていると認められる」行事であること、参加しなかった人へ参加に代えて金銭を支給する場合と役員だけを対象とする場合は除くこと、この2点だけです。
区分できない旅行・同伴者がいる旅行はどうなるか
法人税基本通達9-7-6は、通常必要と認められる金額を超える部分について「原則として、当該役員又は使用人に対する給与とする」と書いています。経費にならないだけでなく、受け取った側の給与になる。個人事業主なら、必要経費から落ちて所得が増えます。
同伴者の費用も原則は給与です(法基通9-7-8)。例外は3つだけ挙がっています。常時補佐を必要とする身体障害者の補佐人、国際会議への出席等のため配偶者を同伴する必要がある場合、外国語に堪能な者や高度の専門的知識を持つ者で社内に適任者がいない場合。個人事業主の側も、所得税基本通達37-20で同伴者の費用は原則として必要経費に算入しないとされています。
渡航そのものが業務上必要と認められないものも決まっています。観光渡航の許可を得て行う旅行、旅行あっせん業者等が行う団体旅行に応募してする旅行、同業者団体等が主催する団体旅行で主として観光目的と認められるもの。この3つは法基通9-7-7と所基通37-19の両方に同じ形で並んでいます。
ただし、そこで終わりではありません。法基通9-7-10は、9-7-7に当たる旅行であっても「旅行先、行った仕事の内容等からみて法人の業務にとって直接関連のあるものがあると認められるとき」は、その部分の旅行に直接要した費用を損金に算入するとしています。団体旅行に紛れた1日の商談は、その1日分として残ります。
判断が分かれるのは、業務と観光が同じ日の中で混ざっていて、時間の区分を示す資料が残っていない場合です。この一点は、実際の日程表と成果物を見せたうえで所轄の税務署か税理士に決めてもらうほうが早く終わります。日数の数え方が0.25日単位である以上、争点は「何日か」ではなく「その半日は何をしていたか」に寄ります。
支払い手段を分けると、あとで日程表と並べ直す手間が増えます。現金とカードと電子マネーに散らばった3日間を並べ直すより、1枚に寄せておくほうが、区分の資料としては読みやすい。旅行用のカードの選び方は旅行系クレジットカードの組み合わせ方にまとめてあります。
よく届く問い: 家族の分、不参加者への現金、帳簿の年限
家族を連れて行った分の費用は経費になりますか
原則としてなりません。法人税基本通達9-7-8は、役員が親族等を同伴した場合の同伴者に係る費用を、原則としてその役員に対する給与としています。除かれるのは、常時補佐を必要とする身体障害者の補佐人、国際会議への出席等のため配偶者を同伴する必要がある場合、外国語に堪能な者または高度の専門的知識を有する者で社内に適任者がいない場合に限られます。個人事業主も所得税基本通達37-20で同じ扱いになります。
社員旅行に行かなかった人へ現金を配ったらどうなりますか
所得税基本通達36-30は、参加に代えて金銭を支給する場合を「課税しなくて差し支えない」取扱いの対象外としています。タックスアンサー No.2603 の注書きはさらに踏み込んでいて、不参加者に金銭を支給した場合は参加者と不参加者の全員に、その金銭相当額の給与の支給があったものとされます。旅行に行った人の側にも課税が及ぶ形です。
帳簿と領収書は何年残せばいいですか
青色申告法人は起算日から7年(法人税法施行規則59条1項)。起算日は帳簿ならその閉鎖の日の属する事業年度終了の日の翌日から2か月を経過した日で、確定申告書の提出期限の翌日と同じ日付になります。青色申告書を提出した事業年度で欠損金額が生じた事業年度は10年です。個人の青色申告者も原則7年ですが、請求書・見積書・納品書・送り状などは5年でよいものがあります。白色申告者の根拠は所得税法施行規則102条で、収入金額や必要経費を記載した法定帳簿が7年、それ以外の帳簿・決算関係書類・請求書や領収書などは5年です。
旅程そのものをどう組むかは別の話になります。日程を業務と観光で分けて設計する感覚は、福岡1泊2日の動線のように時刻まで決めた行程表を作ってみると掴みやすい。会社員として休みを取る側の数字は年5日の有給休暇の義務と取得率にあります。
- 国税庁 所得税基本通達〔海外渡航費〕37-16〜37-21↗確認日 2026-09-14
- 国税庁 所得税基本通達 45-1・45-2(家事関連費の判定)↗確認日 2026-09-14
- 国税庁 法人税基本通達 9-7-6〜9-7-10(海外渡航費)↗確認日 2026-09-14
- 国税庁 平成12年10月11日 課法2-15 海外渡航費の取扱いについて↗確認日 2026-09-14
- 国税庁 No.2603 従業員レクリエーション旅行や研修旅行(Q&A を含む)↗確認日 2026-09-14
- 国税不服審判所 平成8年1月26日裁決(裁決事例集 No.51-346頁)↗確認日 2026-09-14
- 国税庁 No.5930 帳簿書類等の保存期間↗確認日 2026-09-14
出典: 上の原典ブロック / 確認日 2026-09-14 / 一般的な取扱いの解説で、個別の事案の判断は所轄の税務署または税理士へ / 写真: Syced(Wikimedia Commons・CC0) / アイキャッチ写真: Shixart1985/CC BY 2.0(Wikimedia Commons)








